「まあ、いいでしょう。この数年で随分と『近く』なったようですしね」

「……はい」

やはり、全てお見通しか、と。
トウジは、自分の身体が視えない鎖に締め上げられるような感覚を覚えていた。
この男は、自分がイオリと体の関係を続けている事も知っているのだろう。
自分の心の奥底に仕舞いこんできた感情も、見抜かれているのではないだろうか。

「宜しく頼みましたよ。君には、期待している」

ポン、と軽く触れられた右肩が、その手を離されても尚重い。
踵を返す吾妻の背中から、言葉では言いようの無い重圧を感じた。

「ああ、そういえば」

去り際、吾妻がカツリと歩みを止めて、振り返る事も無くトウジに投げかけた。

「その、君の所のお嬢さん、客を装った賊に襲われたようですよ」




「ごめん……イオリ……」

何度目かの、同じ台詞。

宴を終えた兄貴分の見送りを終え、ようやく自由になった頃には、既に辺りは白々と明るくなり始めていた。
真っ先にイオリの元へ駆け付けたトウジが見たものは、ベッドに横たわり、静かに寝息を立てる彼女だった。
賊に襲われた、と吾妻から聞いた時には身が凍る思いだったトウジだが、いつもと変わらぬ寝顔を見せるイオリに、安堵のため息と共にその場に崩れ落ちた。