「イオリ、どこ行ってたのよ!」


丘を下りて家に戻ると、店の前で一人の少女がガラス越しに店内を除いていた。

ゆるいウェーブのかかった長い黒髪を指で弄びながら振り返った少女は、あたしを見付けるなり声を上げながら駆け寄ってきた。


あたしの家は、ロンシャンタウンの中心部から少し西に外れた場所で小さな雑貨店を営んでいる。

と言っても、もう雑貨店の名残を残すだけで、商品棚に疎らに陳列された雑貨たちは埃を被って長い眠りについているのだが。


「小花(シャオファ)。どうしたの、そんなコワイ顔して」

「ちょっと聞いてよ!昨日の客がド級の変態でさ、あたしを縄で縛らせてくれっていうのよ!あたしもう、ホント気持ち悪くて。倍の値段ふんだくって二度と来んなって言ってやったよ」

「那是非常冷酷的。ご愁傷様」

いきなり捲し立てるシャオファに、あたしがからかい気味にそう言うと、彼女の口元がひくりと動いた。


「それはそれは。謝謝。……人事だと思って……」

皮肉たっぷりで言うシャオファだったが、あたしは面白そうにニヤリと口角を上げる。