ユンアンが住むのは、ハオレンの店がある地区から少し離れた、ロンシャンタウンの中でも一、二を争うほど治安の悪い地区である。
狭い路地があちこちに分岐したこの地区に住むのは、如何わしい商売を生業とする連中ばかりで、暗い道には薬物中毒者や、気の触れた人間などが昼夜問わず座り込んでいたりもする。
そんな地区に住むユンアンは、無免許で営業を行っている医者という、やはり如何わしい商売を行っていた。
そんな彼の元に、そろそろ日付が変わるかという時間、ハオレンが珍しく慌てた様子でやって来たのである。
しかも、少女を抱えて、だ。
一体何があったのかと聞いてみると、賊に襲われて殺されそうになっていた所を助けたのだと言うではないか。
その言葉に、ユンアンは多分今までの人生で一番ではないかというほどに驚いた。
強盗や殺しなんていうものは、ここでは日常茶飯事であるし、女が襲われるなんて言うのも決して珍しい話ではない。
言ってしまえば、街の住民たちにとってはごく当たり前の出来事であり、わざわざ首を突っ込むような話ではないのである。
それにも関らず、普段から無愛想で、他人の事にはあまり関心を示さない彼が少女一人を助けたのだ。