「お疲れ様で御座いました、先生。随分と長くかかりましたね」

ルームミラーでちらちらと代議士の男の顔色を確認しながら言う男は、どうやら彼の秘書らしい。
彼の行動予定がびっしりと書かれた茶色い革の手帳を、手元で捲るわけでもなく捲っている。

「ああ。大した話じゃなかったんだがな」

「しかし、例の……過激派の……」

悠々と葉巻をくわえて火を付けながら言う代議士の男に、秘書はやや言葉を濁しながら様子を窺う。

「あんなもの、制圧してしまえばどうということでもないだろう」

ふう、と煙を吐き出しながら言う男の様子は、政治家というよりもどこぞの極道のボスと言った方が正確であるかのようにも思える。
うっすらと浮かべた笑みが、街で噂されるワ系の過激派のことなどどうでも良いと言っている。

所詮ワ系。
国家(われら)が手を下さずとも、どうとでもなる。

「お前もトウ系ならばもう少し胸を張れ。私の秘書が、そんな弱腰では困るぞ」

トウ系であり、代々政治を担ってきたという家系に自信を持っているのか、男は常時強気であった。
それが買われ、今のポストに就任しているのだが。
頼りない笑顔を浮かべながら、「精進いたします」と言う秘書に、男が笑う。