国の機関が集まる区域の、メインストリート。

無機質なコンクリートで整然と造られた広い道路に、小奇麗な建造物群。

等間隔に建てられている街頭のお陰でそれなりに明るさはあるものの、夜ともなると人気はほとんどなくなってしまう。

そんな静けさに包まれた政治区域にあるレンガ造りのビルの前に、黒いセダンの高級車が横付けされていた。

「ささ、先生。こちらへ」

気の弱そうなグレーのスーツの男が、腰を低くしながら後部座席のドアを開け、ビルから出てきた小太りの男にそう声を掛けた。

「御苦労」

いかにも偉そうな態度で言う男は、国の政治の一部を担う代議士だ。
重そうな腹の下で止められたスーツのズボンが何ともだらしないが、貫禄だけはある。

黒塗りのセダンの内装は、シックなレザーを使ったいかにも高級な仕様で、この混乱した国のどこにそんな財源があるのかと思わせる。

ゆったりと身体を包み込むシートに代議士の男がその身を沈めるのを確認すると、気の弱そうな男は丁寧に後部座席のドアを閉めて自分も助手席に乗り込んだ。

「出してくれ」

運転手に短く告げると、黒いセダンが静かに動き出す。