ザアザアという激しい雨音で目が覚めた。
昨日から一睡もしていなかったせいか、どうやら父のソファに横たわって眠ってしまっていたようだ。
目覚めた時、あの事実が夢であればどれ程よいかと思ったが、テーブルの上に置かれたUSBが視界に入り、現実なのだと溜息を吐いた。
ソファに身を預けたままUSBを手に取って、ジーンズのポケットに押し込む。
重い気持ちを引きずるようにソファから身体を引き剥がし、のたのたと仕事部屋に向かった。
「雨、か……」
こんな日は、決まってあまりお客が来ない。
一時でも良いから、忘れたかった。
今まで考えもしなかった父の違う顔を、仕事という名の淫らな行為に任せて、その一瞬だけでも、記憶の彼方に閉まってしまいたかったというのに。
それも、叶いそうにない。
無意識に出る深いため息を吐きだして、あたしはポケットからUSBを取り出して眺めてみる。
この中に、父の本当の『何か』が残されている。
あたしは、知りたいのだろうか。
中身を知れば、このもやもやとした重い気持ちも、少しは晴れるのだろうか。
「……もう、いいや」
半ば自棄に近い気持ちで、あたしは仕事場に置かれた籐編みのチェストにUSBをしまい込んだ。
もう、今日は店も閉めてしまおう。
そう思った、時だった。
カラン
という音とともに、一人の男が店に入って来た。