どうやら、今日も店を開けるつもりのなかった店主の元にこの男がやって来て、店主が嫌がるのを、お得意の笑顔を携えた強引さを持って開けさせたらしい。


タオルを押し付ける店主の力から、その恨みにも似た感情が容易に感じ取れる。


「あちっ!あちちちち!ちょっと、豪人(ハオレン)くん!熱い!熱いよ、これ!」

タオルの熱さに、ユンアンはたまらず身じろいでハオレンの手を引き剥がした。


「もう、せっかちだなぁ、君は……」

ずれ落ちたメガネを外し、先程よりは冷めたタオルでレンズを拭きながらユンアンは苦笑いを零す。

「取りあえず切ってよ。やってもらいながら話すから」

再び掴みどころのない笑顔で言うユンアンに、ハオレンはため息交じりにハサミを構えるしかなかった。


「で、何かわかったのかよ」

ユンアンの奇麗に光る銀色の髪を切りながら、ハオレンが聞く。
鏡の中に映るハオレンの軽やかな手つきを目で追いながら、ユンアンはふふ、と楽しげに笑った。

「龍(ロン)が、そろそろ動き出すみたいよぉ。例のアレも出来あがるみたいだし」

その言葉に、ハオレンのハサミが一瞬止まる。

その様子を見逃すことのなかったユンアンだが、口の端を僅かに持ち上げただけで、それについて言及することはなかった。