「どうしますか、これ」
「……またか」
高い壁が城壁のようにどこまでも続きそびえ立つその前で、鼎仁(ディン レン)は足元に転がった物体に忌々しそうな視線を向けていた。
「顔がこんなぐちゃぐちゃじゃあなァ。どうせロンシャンの人間だろ。身元も調べようがない。女ってことくらいしか分からねぇな」
「また火葬場ですか。身元不明者の葬式が私たちの仕事でしたかね、警部」
見るも無残な姿となったその『元人間』を担架に乗せながら、ディンの部下が溜息混じりにぼやく。
「そう言うな。上も手の打ち様がねぇんだろ、この『街』に」
ディンは煙草を口に運びながら、ちらと横目で灰色のコンクリートで造られた壁を睨みつけた。
警察署の警部であるディンが通報を受けてこの現場にやって来たのは、つい五分ほど前の話である。
ロンシャンの壁の前で人が倒れている、という通報だったのだが、その電話を受けた時から、ディンはまたやっつけ仕事かと顔を曇らせていた。
ロンシャンの壁、その付近で倒れている人間は大概が死人か、死にかけの死にそこない。
それがほぼ決まり事のようになったのは、いつからだったか。
記憶を辿るのも面倒ではあるが、この身元不明の死体たちと顔を突き合せなくてはならないのもよほど面倒だった。
「さっさと潰しちまやぁいいんだ、こんな薄汚い街」
壁に向かって、ディンは唾と一緒に独白を吐き出した。