ある1ページだけを何回も何回もめくって見ていた所為か、本を開くと今でも容易にそのページを開くことが出来た。


分厚い画集の85ページに、その絵画は収録されている。


背表紙と同じ文字で注釈が書かれているが、子供のあたしには何が書かれているのかは良く分からなかった。

今、それが読めるのかと言われれば薄い笑いをこぼすことしか出来ないけれど、この絵画を見たときの感動はあの頃のまま。


厚く立ち込めた雲の隙間からこぼれる陽の光を、まるで階段にでもするかのように、幾人もの天使が地上へ舞い降りてくる、全体的に淡いセピアに仕上げられた絵画。

こんな街で、モノクロの中に閉じ込められたような気さえしていた子供のあたしの心を奪うには、十分過ぎるものだった。

そして、それは今も変わることはなく、あたしの心をきゅっと掴んで離さない。

切なくも温かい、そんな温もりのある絵。

きっと、天国はこんな色なんだろうな、なんて思ったものだ。


父が日記で示していたのは、間違いなくこの画集のことだろう。

この本の後ろに、隠したのだと書いていた。

あたしは、本を取りだして出来た隙間に手を差し入れ、本棚の奥をまさぐってみる。

すると、指先に当たる無機質なプラスチックのような感触。

それを人差し指と中指でつまみ出すように取り出すと、その正体が明らかになった。