心の奥の何かが、妙にざわつき始めたのが解る。
あたしの知らない父の思い出が、そこに残されているような気がした。
あたしは片手に持っていたビールの缶を机に置き、椅子に座って画面を食い入るように見つめながら、そのデータをクリックした。
ようやく、突き止める事が出来た。
あとはこのデータをあのUSBに移し、外へ持ち帰るだけだ。
これで、この危険な街から出ることが出来る。
今夜、あの人にも伝えなくては。
そうだ、USBはあの本の後ろに隠しておこう。
イオリが好きな、あの天国の絵の本の後ろに。
それは、どうやら父が最後に残した日記のようだった。
短く纏められたその日記には、しかしあたしの知らない事ばかりが書かれている。
あの夜、父が出かけたバーには、どうやら待ち人がいたようだ。
それが、一体誰なのか。
何より、父は一体何を突き止めたというのだろうか。
あたしは胸のざわめきを極力抑えながら、一つだけ確信の持てる事実を手に取ろうと椅子から立ち上がった。
イオリが好きな、あの天国の絵の本
あたしは本棚に近づくと、懐かしくも見慣れた分厚い本を手に取った。
背表紙にはアルファベットのような文字で何かが書かれているが、それが読めなくとも中身が何なのかはよく知っている。
子供の頃に、この部屋にこっそり入ってはよく盗み見ていた画集。