イオリが去っていった扉をしばらく見つめた後、男は壊れた祭壇の前に跪き、細くすらりと伸びた手で十字をきってみせた。

そうしてしばらく何かを祈った後、その場に立ちあがって再びふっと笑う。

しかし、今度は先程イオリにみせたような優しさは含まれておらず、その瞳は冷酷なまでに冷たい。

ジャケットの内ポケットに手を差し入れ、取り出したのはシンプルなシルバーの携帯電話だった。


「……私だ」


低く通るその声は、澄んでいながら、しかしどこか氷の冷たさをはらんでいた。