ヴェロニカの酒場を出てから、あたしはいつものように教会で祈りを捧げていた。
いつもより早い時間にここへ来たのだが、相変わらず人気は無い。
こんな朽ち果てた寂しい場所でただ貼り付けられている彼が、あたしは何だか泣いているように見えた。
ほとんど顔が分からないのだけれど、雨の浸食で出来た筋が涙の跡のように見えてしまうからかもしれない。
「神様、今日も一日無事に過ごせますように。それから……」
いつもの決まり文句のあとに、今日は一言付け加える。
「どうか、お父さんもリョウも、そちらで幸せに過ごせていますように」
ふと顔をあげて彼を見てみると、天井の隙間からこぼれる陽の光に照らされた顔が、いつもより一層悲しそうに見えた。
あたし自身の気持ちの所為でそう見えることは分かっていたけれど、なんだか慈悲をもらえた気分になった。
「お邪魔ですか」
唐突にそう呼びかけられ、あたしは思わずびくりと身体を跳ね上がらせた。
一瞬、彼に話しかけられたのかと思ったが、そんな筈はなく、振り返った先には男の人が立っていた。