「ヒロ…。」



そうか…、それが僕の名前なのか。



僕の名前はヒロというのか…。



口に出してみると案外しっくりくる。



砂浜には名前を呼んでくれた女性が倒れている。



そんなことはお構いなしに、砕け散りバラバラになってしまった僕の心が少しづつ修復されるような感覚に陥る。



これが満たされるということなのであろう。



「ヒロ君ごめんね…。」



えっ…。



何でこの女性は謝っているんだ…?



意味が分からない…。



あなたを刺したのは紛れもなくこの僕なんだぞ…。



あなたが『ヒロ』と呼んだ男なんだぞ…。



なのにどうして…



そんな悲しそうな表情を浮かべて、ぼくの顔を見つめて謝るんだ…。



突然のこの女性の理解不明な言葉に頭の中が軽いハレーションを起こす。



「ヒロ君いっぱい泣いてるのに、もう私じゃヒロ君の涙を拭ってあげることも出来ないよ。」



言葉を聞いた瞬間、僕の心臓は一瞬激しい痛みに襲われた。



痛みで体がビクッと反応し、左手でとっさにじぶんの心臓がある位置を押さえてしまう。



そして僕の頬を何かが這い、濡らしていくのが感じられる。



しかも大量に。



頬に軽く触れてみると、僕の頬には大粒の水滴、涙が止めどなく溢れている。



まだこのヒロという者の瞳から零れ落ちている涙は止まることを知らない。



そしてみるみるうちに強張った体から、力がすぅっと抜けていくのが感じ取れた。



膝がガクッと折れ砂浜に両膝をついてしまう。



後を追うかのように両手も砂浜にめり込む。



空からの重圧にも耐えらえないほど、僕の体は弱々しくなっていた。