思考が停止する。
こんな時冷静に物事を考えられる者なんて存在するのだろうか。
悪い予感は的中してしまった。
家に入るや否や食器類は全て割り砕かれており、壁には無数もの穴が……
この場所で、僕の家で何かが起こったんだ。
家の至る所には何者かが激しく荒らし回った跡が残っている。
床には真新しい血の後まで残こして…。
僕は何が起きたかもまるで理解できずに呆然とその場に立ち尽くした。
いや、僕の足はガタガタと震え何が起きたかも分からない恐怖に立ち尽くすしか出来なかったのだ。
そしてこの沈黙の恐怖が破られる。
想像もしていなかった人によって…。
???
「あなたの家族はみんな連れて行かれちゃったわよ…」
背後からの突然の声に僕は驚きすぐさま振り返った。
そこに立っていたのは見慣れた顔。
数時間前まで僕と一緒に他愛もない世間話をしていた……
おばさんだった。
しかし今、僕の目の前に立って哀れみや怒気、そして畏怖の感情を己の中に押し隠すこともなく露わにしている者……
少なくとも僕はこんなおばさんの姿を見たことがなかった。
そもそも嘗てここまで不の感情が溢れている生き物を僕は見たことがあるだろうか。