「ヒロ君と見る世界は大きくて綺麗で本当に素晴らしい世界ばっかりだった。」


 
「でも…
何か欠けていたんだよね?」


 
「だからヒロ君は満たされないまま欠けた何かを捜し続けていたんだよね?」


 
「だからヒロ君…少し休もう?」


 
「私ヒロ君と出会えてホントによかったよ?」



「ねぇヒロ君…?」




 
「今あなたの瞳に写る世界は欠けた所が満ちて綺麗に輝いていますか……?」





正直なところ彼女の抽象的過ぎる言葉は今の僕にはあまり理解できなかった。


 
僕自身のことも何も知らないのに理解しろというほうが無理な注文だ。


 
僕の瞳に写る世界には眠るように息絶えた名前も知らない彼女が月明かりで美しく輝いていた。



今日は満月。


 
海にはぼんやりとした水月が映っていた。


 
そして欠けていた場所からひびが入り音を出し世界が粉々に砕け散るような感覚に襲わる。


 
気付いた時には僕は声を出して泣いた。



今頃になってやっとすべてを思い出し目の前に広がる世界を理解しそれを見て崩れ落ちた。


 
夢から覚めると全てを忘れてしまう。


 
それまでは目の前で冷たくなっている彼女の亡骸を強く強く抱きしめた。