「ヒロ君…。私幸せだったよ。」



女性の顔がすぐ真横に見える。



元から蒼白だった顔が血の気がなくなりよりいっそう青白くなっていた。



それでも僕の顔の位置を正確に捉えて微笑みながら見つめてくる。



この女性の瞳には光が見えていないはずなのに…。



輝きを宿すことがないこの女性の漆黒の瞳には何が見えているのだろうか。



女性の冷たい手が僕の頬に触れる。



そして優しく、優しく、ゆっくりと自分が愛してやまないものを撫でるかのように顔に手を這わせていく。



この女性の柔らかい親指は僕の止めどなく溢れている涙を、涙の通り道を拭い去っていった。



『こんな時に気のきいたセリフをヒロ君にかけてあげられたら…』



『ヒロ君が泣き止んで笑ってくれる魔法の言葉が使えたらいいのに…』



僕はとっさに誰かも分からない、あと少しで命が終わってしまう



この女性を



抱きしめていた。



正確には女性は仰向けで、砂浜に倒れ込んでいるから、僕はこの女性に覆い被さるように身体を密着させている。



何故こんなことをしているのかは分からないけど僕の心が締め付けられるようなこの感覚は止まらない。


 
そして彼女は最後にこう言い残して息絶えた。