「五十嵐(イガラシ)ー」
放課後。
教室の自分の机で帰る準備をしていたら、突然男に名前を呼ばれた。
思わず舌打ちしそうになったがそれを慌てて引っ込めて、声の聞こえた方へと振り返る。
「…何? 山寄君」
「あー、あのさ。
安西が話あるから図書室来てって」
…面倒くさ。
てか何なのさ。そんな暇ねーって。
私は携帯の時計を見た。
午後5時48分。約束の時間は午後6時。
約束の場所までは(本気で)走ったら5分…程度。
「……図書室に居るって? 安西君」
「あ、あぁ」
「そっか。有難う」
安西君のパシリとなった山寄君に笑顔を向けて、私はスクールバッグを持ち、教室を出た。
勿論、私が教室を出て行ったあとに山寄君が顔を真っ赤にしていたことなんて知らずに。