宝さんはそれから店に現れなくなった。
きっと家が忙しいんだろう。
わたしも経った数ヶ月ではあったけれど、そろそろこの店とも離れなければならない。
「ーーママ、すいません」
「セノさんは申し分なく働いてくれたわ。ご家族のご病気とあれば、仕方のないことよ」
この潜入を辞めるに当たって前もって作られていた設定を利用して辞める。
そのこともあって、ママは退職することに反対はしなかった。
宝さんには伝えてない。
そもそも架空の人物のことを伝える必要なんてない。
調べられたって痕跡のないものに変わってるし、諜報機関がうまく誤魔化してくれるだろう。
toxicを辞めることに対抗はなかった。
むしろここで働かなければ、宝さんを苦しめることもなかっただろう。