− 赤木病院 −

紗耶は救急車で運ばれ、ICU(集中治療室)の中で治療中だ。

叔母が紗耶の両親を呼び、病状を告げた。

「久美子(紗耶の母親)よく聞いて!
紗耶ちゃんはWPW症候群なのは、知っているわよね。今とっても危険な状態よ」


※WPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)とは、不整脈を生じる心臓病の一つ。1915年頃からその存在が知られ始め、1930年に多くの症例についての詳しい報告がなされ、世間に知られるようになった。この際の3人の研究者であるウォルフ、パーキンソン、ホワイト各博士の頭文字をとりWPW症候群と名付けられた。
多くの原因としては、Kent束と呼ばれる副伝導路が存在することによって、リエントリー回路を形成することで生じてくる。
通常は洞結節から発した電気信号は心房を経由して心室へと伝達されるが、この疾患では信号が通常のルートのほかKent束を経由する2つのルートを伝わるため、発作が起きると拍動リズムを乱してしまう。発作時の脈拍は240回(bpm)以上にも達し、救急隊員が驚くことがある。多くは放置しても自然に収まるが長時間続く場合は、投薬により抑える。失神するなどの症状がある場合は危険がある。
また、Kent束は心房筋と同じ電気生理学的性質を有するため、心房細動時に心室への過度の伝導が生じ、とくに心房細動時にQRS間隔が0.2秒以内の例では心室細動に移行する危険がある。


「紗耶ちゃんは、心筋梗塞に移行する、可能性があるの、
今ドクターが懸命にそうならないように努力してるわ。」

「姉さん!お願い 紗耶を助けて!」

久美子がそう言っている時にドクターがICUから出て来た。

そしてドクターが叔母に何やら小声で話している。

叔母の表情が変わり、久美子を呼んだ。

「大変な事になったわ、紗耶ちゃん妊娠しているのよ」

両親は驚き、叔母に何度も何度も聞き返した。