ただ、この国には唯一と言っていいほど春に盛んな祭りがあった。

 男には高嶺の花を夢見させ、女性には自らが『華』と化す、それなりに歴史のある文化だった。

 それが、十六歳に達した乙女の祭り。

 彼女らが大人になってゆく祝いの会だ。

そして、その乙女達を「花乙女」という……。

 花乙女達は一年の間王宮に務め、いわゆる花嫁修業をさせられる。

 もしくは秘書官の役を任じられる。

 禁じられていることはいくつかあるが、特に男性との距離感が近すぎてはいけない。

 花乙女はアドラシオー国の文化そのものとなり、最後まで貞操を守った乙女は、隣国の親善大使となる者の僕となり、彼らに付き従い仕事の手助けをする。

 そこまでできた娘でなければ王の後宮に入る許可が得られる。

 城に召しあげられない乙女も当然いる。なぜかは秘密だ……。