「わからぬ。しかし、君にそれを言われるのは辛い」


 このままあてどなく探し回って、それで人生おしまい、ということもあるかも知れないのだ。

 そこは慎重になるしかない。


「いいえ、王子。ボ、いえ。わたくしは幼少の頃から山で遊び回ってましたが、だれもそのようなものを見た者はありませんでした」


 つまり、とってつけたようなうわさ話。

 それも密やかにして、間違いなく当人に伝わるような方法で、届いたのだ、王子の耳に。


「おかしい。城下は今頃どうなっているでしょうか、王子」
「ううむ。どこか信用ならない苛烈な宰相一人、残してくるのではなかったか……」


「そ、それは……いくらなんでも」