「別に使い道に困るほど大量に欲しい訳じゃないんだ。私は市で売られるリンゴが一つばかり欲しかっただけなのに……」
王子はぱちぱちとはぜる暖炉の前で、珍しげにロッキングチェアをぎいぎい鳴らせながら、ほっと息をついた。
この家の女主人が冬用のカマドで湯を用意しようと、腰に手を当ててヤカンを見ていた。
王子の愚痴り癖は今に始まったことではないのだが、彼女には珍しくてたまらない。
「なのにあの親父殿は」
全部だ。
と言って肘掛け椅子を蹴り飛ばす勢いで王子は叫んだ。
「市場中のありとあるリンゴを全て! 買い取って城に運ばせたんだ。それからというもの、朝に昼に夜に、リンゴ、リンゴリンゴ!」