竜殺しの件以来、人々は王子に心安い。その人柄が下町風、というのもあるがやはり、人々を救ってくれた英雄という事なので。


 ただ、庶民の常識を時々乱す、というか根本から破壊してしまうので、そう簡単に民間人と同席はできない。


「どんなご迷惑をおかけするかわかりませんので、こちらから出向きます。王子もご承知くださると思います」


 と、出て行くと、サフィール王子は、なんだか季節に見合わないような薄着で、要するに広場で詩人の真似をするときの格好……やはり彼のために暖炉の前の特等席を空けてもらった方が良いな、と彼女は気の毒になった。


「お話、長くなるようでしたら、おかみさんが暖炉にあたらせてくれるそうですが」