「だが兄を見てみろ。そんなものには侵されない。知っているからだ。おまえの不幸と苦しみを。愛する者すら腕に抱けない運命を」


「おのれ、嘲弄するか……人間ごときが」


「ごとき? それをいうなら小蛇ごときがなにをいう。まだ兄の想いに気付かないか」


 大蛇の目は暗く、意識を闇に奪われている。彼は虚ろになりながらも舌で気配を察知していた。今アレキサンドラの前に瞬間移動し、大きく口を開いて威嚇してくる。

 だが、彼女は理解していた。


「そんななりをしていても無駄だ。見えるぞおまえの本性が!」


 舌を出しながら匂いをかぐ、マグヌムにはわかっていた。自分の身体が泉の水からできた濃霧により、大きくただれていることを。身動きは……わずかにしかとれない。