血の池から這い上がった彼女を不可思議なものでも観るように触れないようにしていた。

 ……当たり前だ。

 いつもは陽気な男言葉で、でも乱暴じゃない、優しい彼女の口からこぼれるのろわしい言葉の数々に、圧倒されていた。

 しばらく息をのんで、動けない様子だった。


「それは、君じゃないよ。地獄の生き物だ。離しなよ」


「いいえ、この子はわたし。ずっと隠し続けてきた本物のわたし」


「そんなの君じゃない!」


「これがわたしなの! わかって……わかってください」


 聞いたことのない彼女のすすり泣きに、王子は忌々しそうに言った。


「勝手に想像してろ!」