『それで梯子の上からも涙を流していたのか。なにがすごいって、そこだよな、彼女。地獄に虹なんて初めてだったろうな』

 それにもう一つ、クリスチーネは大でこ坊やと言い慣わすつもりのようだが、頭の大きめな赤子は、どこも欠けたところのない美青年となって導かれていった。

 その前は、地獄の炎熱で黒こげになり、うずくまったきり、動作も鈍く、動かしづらい手足を丸めて、じっと動かなかった。動けなかったに違いない。巨大な赤ん坊だった彼。

 それでも火中へ飛び込んだのは、亡者の悲鳴を聞き、火事場の何とかで重症な体を押して無理にでも、助けにゆかずにいられなかったに違いない。


「きっと、ボクと同じように、飛び込まずにはいられなかった……そうだよね」


『心配するこたア、ねえさ。あれでも最下層の地獄に耐えてきたのだから、これ以上、悪いことにはなりっこねーさ』


 クリスチーネがなぐさめるように言った。