「私はアドラシオー国の唯一の王子だ。そう言われて育ってきたし、実際そうなのだ。ここで魂の破片すら欠くことは許されない。だが、その私が頼むのだ。応じてくれ、頼む。こうして膝をつき、頼んで居るではないか」
「調子の良い事を」
『くっそー! ほらみろー、あいつは地獄の亡者とぜんっぜん、変わらない。こっちの譲歩にちっとも応じようとなんかしないじゃないかー!』
クリスチーネがアレキサンドラの耳元で、早口でささやいた時、
「調子……? 事は急を要する。優しさと言え」
今はすぐにでもマグヌムを連れ出さなければならない。王子の声は怒気を孕んでいた。
「ところが俺の主が俺を離さないのだ。残念だったな」