学生の頃、コーラスのコンクールでソロパートを請け負ったくらいだ。
残念ながら、俺は学校を休むわけにはいかなかったので、聴きには行ってない。
それでも地元の人々が仕事を放り投げて応援しに行くほど、すばらしかったらしい。
全国優勝だもんな。
おかげで箔がついて、東京の音楽学校へ入学した。
だから、みんな、彼女が普通の会社の事務員になったと聞いたときにはびっくりした。
『上には上がいるものよ。それもたっくさん。ま、いざというときには音楽教室にでも勤めるわ』などという。
音楽校はつぶしがきくという。おかげで俺は姉のことを心配したことがない。
なによりも、だれよりも、失敗などという言葉が似合わない、そんな姉に、俺みたいな弟がいたら、結婚は難しいよな……