「アンナ……」


「レオ、お願い。
話を聞いて。」





白いノースリーブのワンピースに
ショールだけ羽織ったままのアンナ





天使のように美しい歌声を紡ぎ出す、その唇が俺の名前を優しく奏でる。





その声
その響き





君が俺の名前を呼ぶたびに
俺はいつも幸せで溶けていきそうだった





アンナが俺を“レオ”と優しく呼ぶたびに、嬉しくて幸せで



幸せすぎて涙が出そうになっていたことなんて、目の前にいるこの人は何一つ知らないんやろう。





そう思っただけで、
憎らしかった





あんなにも好きだったアンナが
俺は心底憎らしくなった






俺のチャリの前で両手を大きく広げて、俺の動きを制止するきれいなきれいなアンナの顔





「レオ、お願い。
話を聞いて。」





困ったように
傷ついたように
俺に懇願する貴女を
ギタギタに傷つけてやる……と、あのとき思ってしまった。






「聞くって何をや?
あんたが義理の父親と近親相姦してた過去をじっくり時間かけて聞いたらエエんか??」




どうせ捨てられる想いなら
なかったことにされる存在なら
最後に忘れられへんキズをアンナにつけてしまいたい。




愛することと
憎しみ合うことは紙一重




好きだからこそ
裏切られたときの悲しみが大きい




そしてその悲しみは……
時として人を狂気に誘い込む。