娘??
女として??
キス?
Sex??
あの人の口から飛び出した言葉に、体中が硬直する
俺の前で見せる、
自信満々で
いつも余裕のある表情を見せるアンナはどこにもいない
目の前にいるのは……
ただの女の子
キレイだけれど
儚くて
涙を浮かべる
ただの女の子
俺の前で見せる
大人な表情はどこにもいない
「アンナ、君が僕を選んでくれるなら明日の10時にここに来て欲しい。」
そう言って
あの人はアンナに一枚の名刺を渡す。
「ここからやり直そう、アンナ。
娘と養父ではなく、ただの男と女として。」
大人でいちいちカッコよくて
優しくて
でもどこかセクシーで
アンナが俺に教え込んだ“イイオトコ”の代名詞のようなこの男性。
――勝てるはずない
こんな人に勝てるはずないやんか
俺みたいなガキが、あんな大人に敵うはずないやんか
だって……
俺は見たことがない
あんな風に純真無垢な顔して、誰かを見つめるアンナなんて見たことがない。
――アホや……、俺。
こんなところまでノコノコと現れて、一体何がしたかったんやろう……
カタン…………
気がつくと
俺は踵を返して店の出口へと駆け出していた。
「レオ?!」
思わず出した足音に気づいたアンナが
「待って、レオ!
話を聞いて!!」
俺に制止の声をかけたけれど、耳に蓋をして聞こえないフリをして一目散に駆け出した。