「譲さん……」


「探したよ、アンナ。
君が僕の前から突然煙のように消え去って……どんなに僕が苦しんだかなんて、君は知らないだろう。」




どこまでもお気楽でガキな俺は、アンナがステージを終えたのをバックモニターで確認すると、いてもたってもいられなくなってダッシュで控え室からステージ裏へと駆け出した。




No pain No gain




為せばなる
為さねばならぬ、何事も




アンナとあの人にどんな過去があったとしても、俺はアンナを諦めへん!



俺はツイてる、できる男なんやから!!





マスターから教えてもらった教えを胸に刻んで意気揚々と攻めこんだ、舞台裏




せやけどある光景を目にして……
今までの俺の自信はガラス細工のように粉々に打ち砕かれた。




「アンナ。
僕は君がいなくなって初めて気づいたんだ。」



「……え……??」



「僕はね?
恥ずかしいことに、君に恋をしていたみたいだ。君にしたキスもsexも最初は同情と義務感だと思ってた。
だけど……ちがった。」




俺がステージ裏で見たものは





いとおしそうにアンナを見つめる彼と
喜びにうちひしがれている表情のアンナ





――いやや!!なんやねん、コレ!






目の前に巻き起こるラブシーン
頭をトンカチでガツガツ殴られているような衝撃と、ナイフで胸を突かれるような鋭い痛みが体中を襲う。





男は微笑むと
カラダを離し
アンナの髪に指を絡ませ、
髪の束を口元に引き寄せて
髪に優しくゆっくりとキスをした。



その姿はまるで昔のフランス映画のように優雅でエロティックで……



その場にいた誰もが息することも忘れて彼の動向に魅入ってしまった。





「アンナ。僕はどうやら同情だけじゃ女を抱けない体質らしい。」



「え……??」





戸惑うアンナの頬に春風のような爽やかなキスを贈ると





「君にキスしたのも君を抱いたのも、僕が君を愛していたからだった。
娘としてじゃない。女としての君を誰よりも愛していたから君を抱けたんだ。
そんな単純なことに……やっと気づいた僕をバカだと君は笑うかい??」





そう言って
彼は照れたように
恥ずかしそうに、微笑んだ。