夜のとばりにおおわれる町の空を見上げると漆黒の夜空の中に、か細く光る下弦の月を見つけた。
――まるで……譲さんみたいだな。
真っ暗な世界の中で唯一輝き、私を導いてくれた譲さん。
淡くて細いけれど、確かな光で私を導き育ててくれた譲さんに、下弦の月はよく似ている……。
――さよなら、譲さん。
下弦の月を見つめながら、私は小さく呟いた。
それが……
譲さんと暮らした町を旅立った日の出来事。
それからはあてもなく、フラフラフラフラといろんな所へ流れていった。
ここじゃないどこかへ
譲さんとサヨナラできる場所ならどこでもよかった。
温泉街で仲居さんをしたり
ホステスとして働いたり
クラブでピアノを弾いたり歌ったり
ありとあらゆる職業を転転としながら、流れ着いたのが……この街だった。