「もしかして、ヒロ君!?」

2007年6月
いつもと何も変わらない平日昼間の電車のなかで、声を掛けてきたのは中学時代の同級生である、澤村奈美(さわむらなみ)だった。

「すごい久しぶり。中学の卒業式以来だから、10年ぶりだよ。」

俺の名前は神崎大翔(かんざきひろと)。
澤村とは小、中学校の9年間同じクラスという、なんとも作り話のような関係だった。

中学を卒業してからは、当時の仲間達はそれぞれの道を歩き始めた。

俺もその1人。今もデザイナーになる夢を諦める事なくデザイン事務所で雑用を任されている…。

「ヒロ君、同窓会にも全然出席しないんだもん!」
澤村はほっぺをふくらませながら言った。

「あぁ、何かと忙しくてね。それより澤村、結婚したんだってね。敦也に聞いたよ。」
敦也とは、幼少の頃からの腐れ縁で、お互い何でも相談しあう仲である。