「桜鈴、少し行く前にいいか?」

「ええ」


 麗孝は、桜鈴を引き止めると、朝のことを話した。


「嬉しいこと? 陽紗がそんな事言っていたんですね」

「ああ。もしかして……と思ったから一応伝えておこうと思ってな」

「あのことかどうかはわかりませんが、ありがとうございます。早くその時が来れば良いのに……」


 桜鈴は、寂しげにささやいた。

 そんな桜鈴の頭を麗孝は何も言わず撫でる。

 桜鈴は、兄の思いを感じ、優しく包まれたような気がした。


「では、麗孝兄様。行ってきます」


 気分を切り替え、紅 凛風(コウ リンファ)のいる宮廷へ向った。

 紅 凛風──彼女は、南方を護り、朱雀の守護を受ける一族、紅家の出身で、榎国の女帝を務めていた。

 桜鈴は、凛風の良き理解者であり、第一側近でもあった。