ここは、羅国(らこく)。

 城のとある一室に王 鼬瓏(ワン ユウロン)とその側近の者が四人ほど集まっていた。

 そこで……


「我は榎国(かこく)で暮らすつもりだ。もう羅国へは戻ってくるつもりはない」


 鼬瓏は静かに、だが確実にその場の皆に聞こえる様に言った。

 それを初めて聞いた側近の者達は、愕然とした。


 鼬瓏は、羅国の皇帝である。

 羅国の統治者ということもあるが、それ以上に、側近の者は皆、鼬瓏を信頼していた。

 カリスマ性もあり、その治世は、歴代の中でも稀なほど穏やかで平和な世であった。

 このお方が羅国を治めているうちは何も心配がないと安心していたのだ。


 側近の一人──黄 憂羅(オウ ユウラ)は、自分の聞いたことが信じられず、耳を疑った。

 憂羅は、側近の者達の中で、最も若く、一番、鼬瓏を崇拝していた。

 頭で理解したことと、思いが一致せず、憂羅を不安が襲う。