本人は意識していなくてもそれは十分絵になる存在だ。
とにかく掃除を手伝うわけでもなく、
その長い足を片方窓枠に預けて、
半分腰をおろしたような格好で、ぼんやりと窓から外を見ている。
それはまさに、
困惑と得体の知れない恐怖で壊れかかっている美少年が
必死に耐えている、
そんな雰囲気にも感じる。
が、当の京介は全く異なる世界にいた。
しかし… 京介の心理など理解できていないクラスメートたちは、
そんな京介に、
たとえ個人的に話をした事が無いと言っても、
真剣に考えている。
「東条の奴、どこかおかしいぞ。」
「ああ、やっぱり自分の近くに吉岡が落ちて死んだから、
平静な顔をしていてもショックが大きかったのだ。」
「きっとそうだわ。かわいそうに…
東条君の家はお父さんと二人暮しだから家に帰っても一人。
だから何となく心細い気がして、
こうして人の気配が感じられるところにいたいのね。」
京介の家庭環境は、担任と受験の話をすることで、
何となくクラスの中に知れていた。
別に隠す事ではないから気にしていないが、
掃除当番のクラスメート達は廊下に出ては
ひそひそと話をしている。
さすがに教室の中では話せない。
するといきなり京介が動き出した。
音も無く自分の鞄を手にして教室から出て行った。
「私たちがこそこそ話していたから、
気まずくなって帰ってしまったのかしら。」
「ああ、ちょっと軽率だったかなあ。
静かに見守っていた方が良かったかも知れんな。
あんなところを受験した後だし… 」
と、東京大学の医学部を目指して猛勉強していたであろう東条、
それなのに、その直後に転落死に遭遇とは…
転落とは落ちると言う意味に他ならない。
そんな不運に見舞われては心が沈んでも当たり前。
と、クラスメート達は、
全く相手にされないような存在だったが、
京介の不運に同情していたのだ。