「そうか、そうだな。
勉強と言うのは無理に詰め込んでも効果は薄い。

お前のように時間は短くても
やる気があれば… 大丈夫だ。」



栄は、他人が聞けば親ばかもいいところだ、
と言われそうなほど、京介は何をしても可愛い、

と褒めている祖父のように
目を細めて息子を見ている。


自分も受験期を体験しているはずだが… 
不思議と、その頃の事は頭に甦らない。


52歳だが職業柄か落ち着いた風情が漂い、
こめかみの辺りには白いものがちらほら目立つようになって来ている栄。


並んでいる京介が、特に栄といる時は、
頭一つ高いと言うのに年齢より子供っぽく見えるからか、

実際は35の時の子供だが、
もっと遅くに生まれた子供のように見える。




が、その時だった。



「危ない。逃げろ。」



背後からそんな声が聞こえ… 



「きゃあー。」



と言う叫び声や、
大勢の足音が近付いてくる。


何事か、と二人は振り返って後ろを見たが、
生憎周りには背の高い外国人が多く、

やはり彼らもわけが分からず右往左往している。


さすがの京介も、彼らが邪魔になり事態が把握できなかった。


どうやら二・三箇所で騒ぎ声が聞こえる。



「ウッ、」



すると、いきなり栄の後部にいた外国人が倒れ、
誰かがぶつかり、

栄がうめくような声を出して左腕を押さえている。



「父さん… 」