栄の言葉が終わるや否や、
いきなり、いつもの物怖じしない京介が顔を出した。
とても良い顔をしている。
どういう思考回路になっているのか。
それまでは愁傷な顔をしていた京介、
急に明るく元気な口調になり…
52歳の父を、自分より先には死なせない研究を
医学部へ行ってする、と目を輝かせて
父に向かう17歳の京介。
そう、京介の頭の中に、
今までは考えもしなかったことだが、
今はっきりと将来のビジョンができた。
そう、何も他力本願式に考える事はない。
自分の力ですれば良いことだ。
医学部へ行って…
大学だけで不足ならば大学院へ行けばよい。
博士になってでも研究をする。
それならば悩むことなど何もない。
なせば成る、の気持ちが大切なのだ。
そう思いつくと、気持が軽くなり、口も軽くなっている。
その言葉に呆れた栄だが…
いつもの息子に戻った事が嬉しくて、
深くは考えない事にした。
そんな夢みたいな事が出来るはずも無いが、
理由はともあれ、
医学部に進む、と本人の口から出たことは
微笑ましいことだった。
東京大学では難しいかも知れないが…
こいつは並外れた集中力や洞察力もある。
その気になって努力すれば何とかなるかも知れん。
学力や偏差値云々で躍起になっている受験生事情はさておき、
栄はただ京介を見て前向きに考えた。