「京介、どうかしたのか。
今日はいやにおとなしいな。
何かあったのか。」
食欲は無かったが、せっかく父が作った夕食だ、
と無理に流し込んだ京介。
やはりいつもほど食べられなかった。
そしてそんな息子の異変を見逃す父親でもない。
初めはシラを切っていた京介だったが…
元々隠し事だけはしないのが東条家。
とうとう本当の事を打ち明けた。
「何だ、やられたのか。
しかしさくらさんが無事で良かったな。
さて… お前が縫った傷口を見せてみろ。」
そう言って栄は京介のシャツをたくし上げ…
京介が必死に縫い合わせた傷口を見た。
この時の京介はまな板の鯉の気分だ。
「何だ、このめちゃくちゃな縫い方は。
こんなのはダメだ。
わしがやり直す。」
栄は予備室へ行き、
京介がそっと仕舞った道具箱を持って来た。
そして京介をリビングのソファーに寝かし、
手術用のはさみで、
京介が必死の思いで縫い合わせた傷口の糸を切り、
抜き始めた。
「痛い。父さん、痛いから止めてくれよ。
俺の縫い方で十分だ。
くっつけばいいのだから… 」
「黙れ。外科医の息子がこんな傷跡を残したのでは
わしの名折れだ。
こういう傷は後々目に付くものだからきれいに縫ってやる。
痛いぐらい我慢しろ。
しっかり消毒したか。」
「一応… 痛い。
父さん、局部麻酔してくれよ。」
「お前、しょっちゅう喧嘩している割には女々しいなあ。
こんな事ぐらい我慢できないでどうする。
男はみっともなくわめくものではない。
お前の持論ではそうだろう。」
さすがに本職の外科医、
話しながら手際よく傷口を縫い合わせ、
きれいに包帯まで巻いてくれた。