「京介、学校を休んで何をしておる。」



あれから二週間。

明日が卒業式と言う日、
京介が学校へ行く振りをして、
栄が家を出た頃を見計らって戻り、

それまで開けた事など無かった納戸に入り込み、
手当たり次第むさぼっていると、

いきなり戸が開き、
栄の怒っているような声が飛び込んできた。


そうなのだ。

あの事件の時、
家の納戸にあのような刀があったと知った京介は、

学校へ行く振りをして、家は出ているが、

栄が出かけるのを見計らって戻り、

初めて意識した納戸に入り込み、
古い写真や書付などをむさぼっていた。


退屈な学校より、どれだけ興奮できたか。

長持ちの中に詰め込まれた、
骨董品のような武具類なども京介の興味をひき、

頭の中はその事ではちきれんばかりだった。


学校は… 
あの数日後には東大合格、と言う報告を受けたが、

舞い上がるほどに喜んだのは学校関係者だけ。

京介は、そうですか、と一言発して終わっていた。

栄も学校からの報告で喜んだが、

それでも当の京介が嬉しそうな素振りを出さなかったから、
敢えて特別なことはしなかった。


が、京介があれ以来登校していないと言うことは
全く知らなかった。


毎日、行ってきます、と言う息子を見送ってから
自分も職場へ向かっていた。

この三年間の生活そのものだった。


そして今日、
午前の診察を終えた栄のところに、

京介の安否を尋ねる担任からの電話があった。

何でも、体調が悪い、と言ってずっと休んでいると言う。


明日は卒業式.

学校始まって以来の快挙を成し遂げた
東条京介が休むような事が合っては、

卒業式の重みが薄くなる。

とばかりに担任が、
京介の容態を尋ねてきたのだった。


何も知らなかった栄は驚いて家に戻った。

そんな素振りは微塵も無かっただけに
驚きもひとしおだったのだ。