「東条、放課後職員室へ来い。」
文京区内にある都立暁高校。
時は二学期の半ば、
どんな高校でもこの時期は三年生にとっては特別だ。
生徒も教師も次第に厳しさが目立って来ている。
しかし、三年生でも東条京介は、
いつもにように二時間目が終了すると、臆する事無く弁当を広げ食べ始めている。
父子家庭、父と二人暮しの京介は、出勤前の忙しい中、
高校生の息子に必ず弁当を作ってくれる父の愛に応える為に、
何があっても弁当を食べる事は忘れない。
が、その時間が問題なのだ。
この京介、どういう育てられ方をして来たのか、入学以来毎日登校はするのだが、
まともに最後までいたためしが無い。
弁当を食べると、どこかに姿を消してしまう。
掃除当番とかクラスの仕事もどこ吹く風とばかりに、まともにした事が無いから、
初めは級友も黙ってはいなかった。
が、皆で囲んで文句を言おうとしたが、
その貴公子然とした長身、石膏細工の人形のように整った顔立ちの、涼しげな目が異様に鋭くなり,
囲んでいる級友達を睨みつける。
その暗黙の迫力に…
何も言う事が出来なかった級友達は以後何も言わなくなった。
二年生も三年生も然りだ。
別に害を為す不良ではないのだから放っておこう。
そうもっともらしい結論を出して静観している。
そして授業数不足で毎回のように追試を受けているが、
不思議と通ってしまう。
それで今までは教師側も何も言わなかった。
が、三年生の秋となれば話が違って来る。
進路のことも話題に上っている最中と言うのに一向に生活態度が変わらない。
そして今、放課後職員室、と言われたはずなのに、
弁当を食べ終えると当然のように教室を出て行った。
見ていた級友達は何も言わないが呆れている。