教室はすぐにいつもの明るさを取り戻し、それを見計らったように翔はやってきた。

「なぁ、和希は?」

「あー…、わかんない」

そうか、と私の頭にポンと手を置いた翔に、嘘を見抜かれた気がした。

だけど、翔はそのまま自分の席へ向かおうとした。

「そうだ。彩、今度の日曜空けとけよ」

振り返りながら翔は言った。

「え?なんで?」

「映画、見に行きたいんだろ?」

私が言った些細な言葉を覚えていた事に、驚きと嬉しさが込み上げた。

「うん!」



和希はそのまま、授業が始まっても戻って来なくて、あの肩が震えたように見えたのは見間違いなんかではなくて、涙を堪えていたんだと気付いた。

そう確信を持った私はいてもたってもいられず、屋上へ向った。

「和希!」

扉を開けると同時に声を上げていた。

「どうした、でかい声出して」

そこにはいつもと変らない和希がいた。
その姿に大きく溜め息をついた。

「なーんだ。 元気じゃん」

「元気で悪いかよ」

「ううん、元気が一番!」

笑顔で和希の肩に手を回した。