翌朝、教室へ行くと窓際に追いやられた机が目に止まった。
嫌な予感がして教室を見渡すと案の定、翔の席はぽっかりと穴が開いたように何も置かれていなかった。

翔が来る前に…!

そう思い急いで机を戻そうとした時、声が響いた。

「お前らいいかげんにしろよ!」

振り返るとそこには、今まで見た事もないような怒りに満ちた顔の和希が立っていた。

「あいつが何したって言うんだよ! こんなことされるような事、お前らにしたのかよ!」

教室は静まり返り、皆が和希を見ていた。

そんな中でも私は、翔を想い机を移動した。
その時、教室の隅から声がした。

「だって、気持ち悪いし」

呟くような小さな声だったけれど、ハッキリと聞こえた。

「何が気持ち悪いの? 翔は確かにゲイだけど、だからなんだって言うの?」

皆がうつむいていた。

「翔は…私たちの恋愛とは違う、もっと深い所で恋をしてるんだと思う。 それってすごい事だと思わない?」

私の薄っぺらな言葉で翔を守れるなんて思ってない。
だけど、もっと皆に伝えたい事がある。
そう思いながらも涙が溢れ、それ以上何も言えなかった。

「お前ら今まで翔と笑って過ごしてただろ。 お前らの友情ってそんなもんなのかよ。 男が好きとか女が好きとか、そんなの関係なく"人"としての翔をちゃんと見てやれねぇーのかよ」

そう言うと、和希は教室を出て行った。

その後を追おうと廊下に出ると、階段を上がろうとしている和希の肩が少しだけ震えている様な気がして、私は背を向けた。



結局、私や和希の言葉が皆の心に届くことはなかった。