校舎にチャイムが響いてしばらくしてから、イヤホンを外して翔に返した。

「教室行こう」

私の言葉に翔の顔は一気に険しくなった。

「私も和希もいるから」

相変わらず浮かない顔だったけれど、少し微笑み翔は歩き出した。




教室のドアを開けると、クラス中の視線が私たちへと向いた。

「二人でどこに行ってたんだよ」

声を上げたのは和希だった。
「ヒミツ」

私と和希、そして翔の三人だけが笑顔を交わした。

だけどクラス中は、まるで翔がそこにいないみたいに過ごしていた。
そんな姿が痛々しくて、何とかしたいのにどうすればいいのかわからず、何も出来ない。

そんな私の想いに気付いてか、翔は言った。

「何もしてくれなくていい。 お前らがいてくれるだけで充分だ」

そんな言葉に甘えて、何もしないまま、時間だけが過ぎていった。


やがて私や和希も皆から避けられ始めたけれど、私はそれでもよかった。
翔と同じ様に、二人がいてくれるだけで充分だから。



「なぁ、翔は本当にこのままでいいと思ってんのかな」

ある夜、和希は私のベッドに寝そべり、力なく言った。

「どうしたの?」

そう聞き返したけれど、和希は何も言わず、枕に顔をうづめたままだった。

「皆に避けられてて、それでもいいなんて簡単には言えないし、辛くないわけないと思うけど……」

そう言うと、和希はやっと顔を上げた。

「だよな……」

和希の落ち込んだ姿を見ながら、私は不謹慎にもかわいいと思ってしまった。