初雪が降り始めた日、昼食を食べ終わり教室を見渡すと、翔の姿がない事に気付いた。

翔がフラッといなくなる事は珍しくないから、私はいつもの事だと気に止めなかった。
だけど、翔はそのまま授業に出る事なく、帰ってしまった。
私は、何も言わずに帰ってしまった事が気にかかり、和希に聞いてみたものの、いつもの事だとあしらわれた。



翌日、翔は学校へ来なかった。
私は胸騒ぎを覚え、翔にメールしたけれど、夕方になっても返信はなく、何かあると感じた。


放課後になり、翔の家へ向かおうと鞄を手にした時、翔の机にある紙屑に視線が止まった。
何故だか気になり紙屑を手に取ると"翔"の文字が目に飛び込んだ。

早まる鼓動を抑えながら、その紙屑を広げると、私はその場から動けなくなってしまった。

[杉田翔はゲイで男と同棲中! みんな(特に男子)は気をつけて!]

そう書かれた文字の下には翔に対する罵倒の言葉がびっしりと書き込まれていた。
全身から血の気が引くようで、立っているのが精一杯だった。
そんな様子に気付いた和希は慌てて駆け寄り、私を支えた。

「これ、どうした?」

私の手に握られた紙屑に目を通した和希は、低い声で言った。

「翔の…机の上に…」

溢れる涙を必死で堪えた。

どうしてこんな事が出来てしまうんだろう。
みんな、翔と一緒に笑ってたのに…。
友だちなのに…。

人はどこまで残酷なんだろうと、恐ろしくなった。


私はそのまま和希に連れられて家へと帰った。

しばらくして一度帰った和希が、再び家を訪ねてきた。

「彩が落ち込んでどーすんだよ。 一番辛い思いしてんのは翔だろ。 今、あいつの味方になってやれんのは俺らしかいないんだから」

いつもと違う、凛々しい和希にハッとした。

きっとあれを見て、翔は深く傷付いたはずなのに、たった一人で受け止めてたんだ。

「そうだよね。泣いてばかりいられないよね」

まだ涙は止まらないけれど、笑顔で答えた。