「寒いー!」

授業が終わり校舎を出ると、思わず声を上げた。

いつの間にか季節は秋へと変わり始め、辺りを見渡せばマフラーを巻いている人ばかりだった。

「マフラーくらいして来いよ」

そう言いながら和希は、自分のマフラーを私の首にそっと巻いた。

「ありがとう」

和希に笑顔を向けると、ふいに後ろから声をかけられた。
振り返ると、真っ直ぐに私を見る女の子に見覚えがあった。

だけど思い出せず、声をかけようとした時、私の言葉を遮り彼女は言った。

「翔先輩と付き合ってるんですか?」

翔の名前を聞き、やっと彼女を思い出した。

「あの時の!」

彼女が翔に何かを渡しているのを見た事があった。

「翔先輩と和希先輩、友だち同志の二人と二股なんて最低ですよ!」

突然のことに呆然としていると、和希が笑い出した。

「俺も翔も、彩とは付き合ってねーよ。 ただの友だちだ」

「でも…翔先輩は付き合ってる人がいるって……」

彼女の瞳には涙が溜まっていた。

「私じゃないよ」

そう言うと彼女は私に謝り、走り去って行った。

「なんだ、あれ?」

彼女の後ろ姿を見ながら和希は言った。

「"恋する乙女"だね」

彼女の懸命さが嬉しかった。
「何やってんの、二人して」

小さくなる彼女の姿を見つめながら立っていると、突然翔が現われた。

「別にー」

「お前、ビックリするだろ」

驚きながら和希はそう言って笑った。



「なぁ、彼とうまくいってんの?」

三人で歩き始めてしばらくすると、和希は突然、翔に向かって言った。

「まぁな。最近は俺の所に入り浸ってる」

翔は笑顔でそう答えたけれど、一瞬戸惑っているようにも見えた。

「俺も早く彼女探さねーとな。 翔に負けてらんねーし」

薄曇りの空を見上げた和希の横顔が悲しげで、私は何も言えなかった。