水を弾く音が部屋へ響き始め、話し相手がいなくなった私はテレビをつけた。
すると、それを見計らったようにケータイが鳴り、ディスプレイの"和希"の文字を確認すると電話に出た。

「彩、ちゃんと自分の気持ち伝えろよ」

出るなりそう言う和希の言葉を理解できなかった。

「いきなり何?」

「いつまでもモヤモヤしたままでいるより、伝えてもっと仲良くなれた方がいいだろ」

「仲良くなれるとは限らないでしょ。離れていっちゃうかも――」

「そんな奴じゃねーだろ、翔は。 今まで一緒にいてわかんなかったわけじゃないだろ? あいつは彩から離れたりなんてしねーよ」

私の言葉を遮って和希が言った事はもっともだった。
きっと私たちの関係は崩れない。
翔はそんな人じゃない事はわかっていた。
だけど、自分の気持ちを言葉にするのが怖かった。




和希からの電話を切るとベッドへ腰を下ろした。

「何、真面目な顔してんだよ」

突然聞こえた声に顔を上げると、パンツ一枚で髪を拭く翔が立っていた。

「彩も入ってこいよ」

慌てて視線を落すと翔が言った。
私はただ頷き、バスルームへ向った。



シャワーを浴びて部屋へ戻ると、テーブルに置いたはずの缶が無くなっていた。

「ごめん、俺が飲んだ」

缶を探す私に気付き、翔は微笑んで言った。
その笑顔に、このまま時間が止まればいいのにと思った。
ずっとこのまま、二人で見つめ会えていたらと、叶わない夢を見た。

そして、気付けば口が開いていた。

「私……翔が好き」

「ありがとう。 でも、彩の気持ちに応える事は出来ない」

翔は驚く事もなく、そう言った。

「ありがとう」

翔の真っ直ぐな瞳に、私から逃げずにちゃんと向き合ってくれていると思えて、嬉しくなり、自然と言葉が出た。