近くのコンビニに入ると、パラパラと雑誌をめくる翔の横で、私も同じ様に雑誌をめくった。
だけど頭の中は、葉月のことでいっぱいだった。

さっきの葉月はいつもとはまるで別人のようだった。
それなのに和希はあんなに冷静で、私は翔の「二人の事は二人にしかわからない」という言葉をかみ締めていた。


それからすぐに、和希からの電話でコンビニを出ると、葉月はしっかりと和希の手を握っていた。

「俺、今日は葉月と一緒にいることにしたから」

「……大丈夫なの?」

葉月の両親が外泊を許すはずがない事は、私も翔も充分にわかっていた。

「帰ってからの事は、覚悟してる」


「じゃあ、俺らも泊まるか」

しばらくの沈黙の後、翔は言った。

「ありがとう」

和希は翔の想いを感じ取ったのか、深々と頭を下げた。

そして私たちは、駅からすぐのファミレスで食事をとり、時間を潰した。
葉月はすっかり落ち着きを取り戻し、いつもの笑顔を振りいていた。
和希はそんな葉月にピタリと寄り添い、手をつないでいた。



夜九時をまわり店から出ると、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。
空気は澄み星空が広がり、人も疎らで自分のペースでゆっくり歩けるこの感じが、私は昔から好きだった。

「ぶつかるぞ」

夜空ゆ見上げてフラフラと歩く私に、翔はそう言って手首を掴み、目の前の電柱を避けるように手を引いた。

嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいで、翔に引かれるように歩いていると、翔の背中を大きく感じた。



「ここでいいか」

和希は派手にライトアップされたラブホテルの前で仁王立ちになった。

「ラブホって」

和希の姿や、突拍子もない考えに笑いが込み上げた。

「いいから行くぞ」

和希は葉月の手を引き、笑顔で中へ入っていった。