「あぁやって楽しそうにしてるけど、あの笑顔に辿り着くまでに、二人にしかわかんねーいろんな事があっただろうし、今だって二人の想いが同じだとは限らないだろ」

仰向けに寝そべり、空を見つめる翔の目が冷たかった。

確かに、二人にしかわからない時間がある。
それでもあの笑顔を見て、先を疑う事は私にはできなかった。


翔と私の間には沈黙が流れていたものの、周りの楽しそうな声にかき消されていった。

そんな中、翔が口を開いた。

「彩、好きな人が出来たんだろ?」

私は言葉を失い、頭の中には和希の笑顔が映し出されていた。

「和希に聞いたの?」

「いや、あいつは何も言ってねーよ。ただ、俺がそう感じただけ」

翔の言葉に肩の力が抜け、溜め息を漏らした。

「やっぱり好きな奴がいるんだな」

からかうように笑う翔の笑顔が可愛かった。

「うん、まぁ…。でも、どうしたらいいのかわからなくて」

「無理にどうこうしなくてもいいんじゃねーの?」

笑顔を向ける翔に、意を決し聞いてみた。

「翔は、付き合ってる人とかいるの?」

「まぁな。元カレとより戻したんだ」

私の頭の中ではすぐに、あの"香水の男"が浮かんだ。
そして、翔の中に私が入れる隙なんてないんだと、思い知らされた。




日が暮れ始めた頃、駅に着き電車の時間を確かめていると、突然、葉月はその場に座り込んだ。

「帰りたくない」

そう言った葉月の瞳からは、涙がポロポロとこぼれていた。
何が起きたのかわからず、呆然と立ち尽くす私と翔をよそに、和希は一人冷静で、葉月を抱き締めていた。

翔はすぐに私の手を取り、和希たちを残してその場を離れた。