先生、笑ってる。


うふふ、ウケたみたい。


「ありがとう。

一生、大事にする」


「うん、大事にしてください」


たっぷりはぐはぐしてもらって、それから先生も署名捺印。



『婚姻届』が出来上がり、先生が立ち上がって、隣の部屋へ。


書斎から持ってきたのは、大きなカメラ。


写真屋さんだった先生のお父さんの、大事な形見。


家族の大事な時には、必ずこのカメラで撮影していたって聞いた。


お父さんが亡くなる前、最期に家族写真を撮ったカメラだって。


亡くなってから、それは先生の役目になっていた。


お姉さまが結婚した時。


甥の陵君と姪の薫ちゃんが生まれた時。


お兄さまとお姉さまが家を建てた時、私もご招待されて一緒に撮ってもらったカメラ。



「記念撮影しよう。

いつか、このカメラで自分の家族写真を撮るのが夢だったんだ。

今日は入籍記念日だから、婚姻届と一緒に。

来年の今頃は、どこかの国へ行く準備をしている様子を。

再来年は、地球のどこかで楽しく暮らしている姿を。

そしていつか、新しい家族と一緒に笑う菫を撮りたい」



先生のその言葉に。


私の心にはリアルな情景が、目には涙が浮かんだ。